ボードゲーム漫画は片山まさゆき先生っぽいのがあるといいと思う

 最近は、けっして多くはないですがボードゲーム漫画というのを見かけるようになりました。学校にゲーム部があって、みたいなのがパターンだと思います。
 さて、ジャンルとしてのボードゲーム漫画には、ボードゲーム知名度を高めよう、という目的があるかと思います。販促という言葉を使うのは商業的すぎるかもですけど、純粋な作品というわけでもないというか。たとえば将棋マンガの『月下の棋士』には、将棋を知らない人に将棋を知ってもらおうという目的意識を感じるわけではないのに対し、ボードゲーム漫画には、ボードゲームの存在を知らない人に知ってもらおうという意識が感じられます。
 しかしながら、『月下の棋士』を読むと、将棋をやってみたくなるという影響が確かにあります。一方でボードゲーム漫画を読んだとき、これを読んでボードゲームをやってみたくなるだろうか、と疑ってしまう面が、少なくとも僕個人にはあります。
 「いやそれは個人の感想だよね。自分はボードゲーム漫画を読んで紹介されているやつをやりたくなったよ」、という反論は当然あると思います。しかしそれは、もともとボードゲームファンの人が、次にやるゲームとしてそこに紹介されているゲームに興味が出た、ということじゃないでしょうか。ボードゲームファンじゃない人がボードゲーム漫画を読んで面白がるか、というのはそれとはだいぶ違います。
 これもまた僕個人の感想ですが、いまあるボードゲーム漫画は、リアル過ぎる、のじゃないでしょうか。ボードゲームの販促漫画は、全然リアルじゃなくてもいいんじゃないでしょうか。
 漫画やアニメでゲームの販促をして、大成功した例としては、ポケモン、そして遊戯王だと思います。それらのストーリーの中では、主人公がポケモンでバトルをしたり遊戯王のカードゲームをしたりして勝負します。(主人公がゲームで勝負をする、というのがもうひとつのポイントで、ゲーム内ストーリーのアニメ化、は、これまた販促としては微妙だと思います。例えばドラクエのアニメ化とか)
 ポケモン遊戯王のストーリーは、“リアル”ではまったくありません。なんかこう、カードゲームに勝ったら世界が征服できるような世界観です。現実世界で、オモチャ屋さんで遊戯王を買ってきて友達と遊んでも、別に世界が征服できたりはしません。
 しかし、この全然リアルじゃない世界観の遊戯王のアニメは、販促として実際大成功であり、アニメをみた小学生は事実として遊戯王を買って友達と遊びたいと思うわけです。ストーリーの中のリアルじゃない部分は決して障害にならず、むしろロマンとして遊戯王という非電源ゲームを遊びたい気持ちをブーストするわけです。そしてこの、リアルじゃないロマンの要素を持つボードゲーム漫画がもっとあってもいいんじゃないかと思うのです。
 「いやちょっと待って欲しい。理屈は分かった。しかしボードゲームのメインターゲットは小学生よりもう少し高い年齢層なのだ。ボードゲームに勝ったら世界征服という世界観の漫画はいまさらちょっとアレじゃないか」、という反論があるでしょう。(とはいえ『少年ジャンプ』は何才になってもいいものですし、もっといえば『ハンター×ハンター』の話とかを始めることもできるわけですが、まあそれは措いたとして)確かにボードゲームに勝ったら世界征服というのはちょっとアレかもしれません。さてそれでは、いわゆる大人が対象になっていて、漫画で、ゲームを扱っている、確立されたジャンルをお手本にしましょう。すなわち麻雀漫画です。
 麻雀に興味がない人は麻雀漫画にもまったく興味がないと思いますが、ここでは麻雀は重要ではなく、その方法論に注目します。麻雀漫画もまた、少なくとも身近ではないという意味でリアルじゃない世界観がほとんどです。例えばヤクザの世界で麻雀を打つ漫画があって、そこには確かに、それを読んだ人が麻雀を打ちたくなるという効果があります。このとき、その読み手は、決してヤクザの代打ちになりたいと思うわけではなく、単に友達と麻雀したいなーと思うだけです。つまりここには、遊戯王とまったく同じ構図があります。
 しかしヤクザというのもボードゲーム漫画にはあまりお呼びではない設定ですよね。というところで、このコラムのタイトルにも出てくる、片山まさゆき先生のスタイルのボードゲーム漫画があればいいのになあ、というのが今回の本題になります。
 片山まさゆき先生は、不朽の名作『ノーマーク爆牌党』を始めとして数多く作品を描かれている麻雀漫画の第一人者です。麻雀漫画を読まない人に説明するなら、むかしファミコン通信に『大トロ倶楽部』を連載していた人、というのが分かりやすいでしょうか。
 ゲーム漫画としての片山作品のすごいところは、キャラクターを“プレイスタイルでキャラ立ちさせる”ところです。それこそが、こんなボードゲーム漫画があったらなあ、と僕が思う魅力なのです。
 そう、例えばこんなボードゲーム漫画があるとうれしい。
■世界観
ボードゲームプレイヤーのプロリーグがある。A級リーグ、B級リーグ、C級リーグみたいになってて、下のリーグで勝つと上のリーグに上がれる。C級だとアルバイトとかもしないと食べていけないがB級以上ならゲーム大会の収入で食べていける。テレビでもボードゲーム大会の中継とかあって、プロプレイヤーはコメンテーターとして呼ばれたりする。
■キャラクター
・主人公。孤高の天才プレイヤー。独自のプレイ感を大事にしていて、「嫌な感じがする」などの理由で最善に見える手をあえて避けたりする。
・ライバル。確率計算キャラ。常に確率を考えて最善手を打つ。主人公のプレイスタイルは適当に見えて好きじゃない。
・幸運初心者キャラ。ゲームは上手くないんだけど、カードの引き運やダイス運が異常に高い。初心者なのでルール説明を受けたりする担当にもなる。
・ギャンブルキャラ。常にハイリスクハイリターンを狙う。ギャグキャラっぽいポジションだけどたまにカッコよくて主人公が負けた相手に勝ったりする。
・口が上手くて交渉ゲームは強いが交渉のないゲームは弱いキャラ
・相手の顔色を読んで手の内を見切ることに特化したキャラ
・ほとんど思考時間をかけずにノータイムでプレイするキャラ
・筋肉マッチョなキャラ(もちろんゲームの役には立たない)
・あらゆるゲームをプレイしてきたという年寄りキャラ
・神の一手を打ってくるラスボスっぽいキャラ
・禅僧
・宇宙人
・etc.
■ゲームの描写
各ゲームについては、そのゲームのプレイ感のキモとなるルールだけ説明して、詳細な説明まではしない。人間対人間の勝負であることを前面に出す。名誉とプライドがかかった勝負であり、決して負けられない、くらいの勢い。現実のゲームプレイはカジュアルなものであっても、漫画におけるプレイ描写がカジュアルである必要はない。
■ストーリー
・基本は1話完結で、毎回違うゲームで主人公とライバルが対決するとか。
・A級リーグのメンバーと順に闘うシリーズとか
・二人用ゲームでトーナメント編とか
 みたいな、ね。プレイ中の心理描写を重視して、『オイそれはオレの魚だぜ』で道を塞がれたら自分が氷壁の上にいて足元がガラガラ崩れる描写が入るようなボードゲーム漫画が読みたいわけです。ルール説明を思い切って端折るのも大事だと思います。ルール説明が多過ぎると、ルールブックの付属マンガみたいになってしまって、そのゲームを遊ぶかどうか迷っているボードゲームファンにとっては役に立つかもしれませんが、そもそもボードゲームを知らない人にそのゲームを遊びたい気持ちにするには逆効果です。読者に伝えるべきなのは、そのゲームを遊ぶことがドラマチックな体験になるよ、というメッセージなんだと思うのです。